法人や個人事業主など、従業員を雇用している企業にとって、通常の業務以外にも従業員を採用し、教育するといったコストは必然的にかかってきます。
賃金や会社としての設備など、抑えることはできない部分なので、経営が大変というケースもあるのです。
しかし、企業規模に関係なく、従業員の存在は会社にとって事業の発展のために必要不可欠であり、守らなくてはいけない存在といえます。
そのような企業の雇用リスク軽減のため、厚生労働省は雇用関係助成金という制度を用意しているのです。
雇用関係の助成金は、企業側だけではなくて働く側のことも考えられているため、お互いにとってメリットがあります。
雇用関係の助成金はかなり種類があり、それぞれご紹介するので状況に合わせて申請を検討してみてください。
雇用関係の助成金とは人材雇用に関する支援
雇用関係助成金は、名前の通り「雇用に関する助成金」を意味しています。
厚生労働省が管轄していて、労働者の雇用環境を安定させることを目的としているのです。
雇用が安定することによって、さらなる雇用の拡大が期待できるため、所定の目的達成を行った事業者に対しての支給となります。
支給された金額を後々返済する必要もないですし、資金をどう使用したとしても問題はありません。
一方で、助成金の条件はそれぞれしっかり決まっているため必ず確認しておきましょう。
単純に条件をクリアするだけを目的にせず、しっかりと採用計画を実施して、支給された後もきちんと運営していくことを意識してください。
支援を受けるための条件
雇用関係の助成金は、とても多くの種類が存在しています。
それぞれの種類に対して、バラバラの条件が設けられているとイメージされますが、共通の条件なので複雑ではありません。
どの助成金を申請する際でも、条件が同じであれば迷うこともないですし、困ることもないでしょう。
条件は、以下の通りです。
- 雇用保険適用事業所の事業主
- 審査に協力する
- 申請期間を守る
厚生労働省が管轄している雇用関係の助成金なので、従業員を雇用保険に加入させている事業主しか申請ができません。
それぞれ期間が決められているため、必ず期限を守ってください。
どれだけ大変な状況でも、期間内に申請してもらえなくては対応ができないので、必ずスケジュール管理は行いましょう。
当然ですが、支給するにあたって審査が行われます。
厳しいチェックが入るとまではいえませんが、追加書類の提出や実施調査などが行われる可能性があるのです。
その際、拒否したりきちんと提出しないなどがあれば支給対象として不適切と判断されるため注意しましょう。
雇用関係助成金の種類は大きく分けて7つ
とても幅広い範囲で雇用関係の助成金は設定されていて、覚えるのは大変ですが大枠だけでも覚えておくと良いです。
大きく分けると、以下の7つです。
- 雇用維持関係
- 再就職支援関係
- 転職・再就職拡大支援関係
- 雇入関係
- 雇用環境整備等関係
- 両立支援等関係
- 人材開発関係
それぞれ、対象となるケースや条件が違ってくるので解説します。
雇用維持関係
雇用調整助成金と呼ばれるもので、休業・教育訓練・出向を通じ、従業員の雇用を維持するための支援です。
わかりやすいのは、何らかの理由で休業し事業活動が行えなくなった際に従業員への手当などを負担してくれます。
受給額は休業手当・教育訓練の場合は1人1日8,330円を上限とした賃金相当の2/3、大企業なら1/2が支給され、教育訓練の場合は1人1日1,200円です。
解雇等を行わなくとも一時的に対応が可能になるので、安心できるといえます。
条件は、以下の2点です。
- 売上・生産量などの指標が直近3ヶ月の月平均で前年比の-10%以上
- 直近3ヶ月で従業員の雇用量の月平均が一定数増加していない
近年は新型コロナウィルスによる影響を受けた企業に関しては、別途特例措置をとっていて、条件が違います。
より緩和されているので、申請がしやすいためあらゆる理由で休業せざるを得ないなど悩みを抱えている場合は、一度相談してみてください。
再就職支援関係
労働移動支援助成金と呼ばれるもので、以下の2コースに分かれます。
- 再就職支援
- 早期雇入れ支援
再就職支援コースは、離職しなくてはいけなくなる人に対して、民間職業紹介事業者に委託して再就職に向けての支援を行います。
求職活動で必要な休暇の付与、再就職のための訓練を事業者に委託して実施した場合に助成金が支給される制度です。
受給額は、委託の際に必要な費用の1/2で、そのほかに職業訓練やグループワーク加算があります。
条件は、以下の3点です。
- 労働者が要件を満たしている
- 計画書の提出
- 職業紹介業者に委託
労働者の要件に関しては、非常に細かく決められている上に変更が繰り返し行われているので、厚生労働省の公式ホームページで都度確認すると確実です。
計画書は「再就職援助計画」を作成し、公共職業安定所所長の認定を受けるか「求職活動支援基本計画書を作成し、都道府県の労働局に提出します。
必ず、申請の際にはすでに職業紹介者に委託する計画を立てていなくてはいけないので、ルールは守りましょう。
早期雇入れ支援コースは、離職しなくてはいけなくなる人を3ヶ月以内の早期雇入れを行った場合に受けられます。
受給額は、1人につき30万円で助成金目当てで雇用されないように、期間の定めを設けない雇用での採用が対象です。
条件は、以下の2点です。
- 離職後3ヶ月以内に期間の定めのない雇用
- 一般被保険者または高年齢被保険者として雇用
職を失った人はすぐに次の仕事が見つかり、企業も雇用の幅が広がるのでお互いにメリットがあります。
転職・再就職拡大支援関係
中途採用等支援助成金と呼ばれるもので、以下の3つのコースに分かれています。
- 中途採用拡大
- UIJターン
- 生涯現役企業支援
中途採用の拡大や東京圏から移住者などを雇い入れて、雇用の機会を見つけようという目的です。
それぞれのコースについて、解説します。
中途採用拡大
名前の通り、中途採用者の雇用管理制度の整備が目的です。
中途採用を拡大させ、企業の生産性をアップさせる支援といえます。
条件は、以下の3点です。
- 中途採用計画を作成する
- 労働者が要件を満たしている
- 計画期間に中途採用の拡大を図る
助成金はあくまで「中途採用を拡大させる企業を応援するため」にあるので、どのように採用活動を行っていくのか計画書をまずは管轄の労働局に届け出る必要があります。
計画には労働時間や休日、福利厚生など雇用管理体制や取り組みを行う期間の記載などが必要です。
さらに、計画期間内にしっかりと採用の拡大を図る必要があるのです。
以下の状態であれば、拡大を図っているとみなされます。
- 計画期間より前の中途採用率60%未満の事業所が、期間内に2人以上雇い入れて採用率を20ポイント以上アップさせる
- 計画期間より前に45歳以上を中途採用したことがない事業所が、期間内に初めて45歳以上を中途採用する
- 期間中に定量及び定性情報を公表した事業所が、期間内に支給対象者を10人以上雇入れ、期間前と比較して上回っている
複雑に感じられますが、要は年齢など縛りを設けず、積極的に雇用してくださいという意味です。
また、労働者に対する要件ですが、以下の5点です。
- 申請事業主に中途採用で雇用
- 雇用保険の一般被保険者・高齢被保険者として雇用
- パートタイムを除き、期間の定めのない労働者として雇用
- 雇用日の前日から起算し、その日以前の1年間に雇用関係がない
- 雇用日の前日から起算し、その日以前の1年間に申請事業者と関係がない
細かく決められているので、対象になるかきちんと確認してください。
受給額は、どれだけ中途採用を拡大できたのかによっても違いがあるので、都度確認しましょう。
UIJターン
移住支援金の受給者を対象とした助成金で、以下の4点が条件です。
- 東京圏からの移住者
- 地方公共団体が開設運営しているマッチングサイトに掲載されている事業主の求人から雇用
- 雇用保険の一般被保険者・高齢被保険者として雇用
- 継続雇用が確実
移住支援金は、東京23区に住んでいるもしくは通勤している人が東京県外に移住して、企業や就業を行う場合に都道府県や市町村が共同で交付金を支給する事業を指しています。
新卒も対象ですがUIJターンの場合は、中途採用者のみです。
受給額は、募集やパンフレットの作成、自社ホームページ・PR動画の作成費、説明会費用などの経費が対象で、上限100万円と決められています。
ただし、求人掲載料は対象になりません。
生涯現役企業支援
40歳以上の方が企業する際に支援するコースで、企業から11ヶ月以内に「雇用創出措置に係る計画書」を作成し、都道府県労働局長の認定を受ける必要があります。
その後、計画書の内容に伴って以下のいずれかの要件を満たす労働者を雇用してください。
- 60歳以上を1人以上
- 40歳未満を3人以上
- 40歳以上60歳未満を2人以上
- 40歳以上を1人、40歳未満を2人
さらに、雇用した人の過半数が離職していない、離職者数が計画期間内に雇入れた労働者の数を超えないなども条件の1つです。
事業主への要件も細かく指定されているので、申請する際は必ず事前に確認しておきましょう。
受給額は、期間内に必要な雇用創出措置に係る費用の合計と助成率を乗じた額と決まっているのです。
起業時に40歳〜59歳の場合は、上限が150万円で費用の1/2が支給され、60歳以上の場合は、上限が200万円で費用の2/3が支給されます。
雇入れ関係
新たに労働者を雇用する場合に受けられる助成金で、大きく以下の3つに分けられます。
- 特定求職者雇用開発
- トライアル雇用
- 地域雇用開発
どの分類も一般的に、なかなか就職することが困難な状況にある人を採用することで得られる助成金です。
特定求職者雇用開発
主に、高齢者・障がい者・母子家庭などの就職困難者を雇用した企業に支給されます。
そのほかにも、さまざまな事情で就職困難となっている人の雇用を活発にする助成金です。
コースは以下の8つに分けられます。
- 特定就職困難者コース
- 生涯現役コース
- 被災者雇用開発コース
- 発達障害者、難治性疾患患者雇用開発コース
- 3年以内既卒者等採用定着コース
- 障がい者初回雇用コース
- 安定雇用実現コース
- 生活保護受給者等雇用開発コース
それぞれのコースで受給額が変わり、中小企業で40万円〜120万円、大企業で30万円〜120万円です。
条件はどのコースも基本は以下の2点が挙げられます。
- ハローワークや職業紹介事業者の紹介
- 雇用保険の一般被保険者として継続雇用の見込み
3年以内既卒者採用定着コースの場合は、3年以内の既卒者や中退者が対象なので、これまで既卒者や中退者を雇い入れたことがない企業が対象です。
また、障がい者初回雇用コースは条件が全く違い、以下になります。
- 50〜300名の企業
- 3ヶ月以上の雇用
- 対象者を過去3年間雇用していない
受給額に関しては変動があるため、都度確認してください。
トライアル雇用
最大月額5万円を3ヶ月支給してもらえる制度で、トライアル期間を設けて雇用の機会を創出した企業が対象です。
条件は、以下の3点が挙げられます。
- ハロワークや職業紹介事業者の紹介
- 3ヶ月のトライアル雇用
- 1週間の所定労働時間が通常労働者と同等程度
名前の通り、原則トライアル期間を設けて雇用機会を広げなくてはいけません。
細かな規定がないため、幅広い企業がチャレンジしやすい助成金です。
- 一般トライアル
- 障がい者トライアル
- 障がい者短時間トライアル
- 若年・女性建設労働者トライアル
コースは細かく分けられていて、労働者側に寄り添った制度といえます。
地域雇用開発
雇用機会が低下している地域事業主が事業所の設置や整備を行い、雇入れをする場合が対象です。
条件は、以下の4点が挙げられます。
- 埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県・愛知県・大阪府以外の地域
- 計画書の提出
- 3人以上の雇入れ
- 事業用施設の設置や整備
対象地域が決められており、雇用のみではなく事業所の設置や整備を同時に行います。
3回まで受給できるため、受給額も48万円〜960万円とかなり幅が広いです。
基本は「地域雇用開発コース」が対象ですが、沖縄県だけ「沖縄若年者雇用促進コース」があり、県内で35歳未満の若年層を受け入れるともらえます。
雇用環境整備等関係
7つに分けられる雇用関係助成金の中でも、最も細かく分けられている部分です。
主に障がい者や高齢者の雇用、労働者がキャリアアップしていくための支援が目的といえます。
大きく分けて以下の10に分かれており、さらに細かいコースに分かれています。
- 障がい者雇用安定
- 障がい者作業施設設置等
- 障がい者福祉施設設置等
- 障がい者介助等
- 重度障がい者通勤対策
- 人材確保等支援
- 通年雇用
- 65歳超雇用推進
- キャリアアップ
障がい者を雇用する際の助成金は、計画書を提出することと継続的な雇用が基本です。
そのほかの要件は、それぞれでかなり細かく決められているので厚生労働省の公式ホームページから確認しましょう。
通年雇用助成金は、季節労働者と呼ばれる人たちを通年で雇用した場合支給対象になります。
北海道・東北地方の積雪寒冷地の場合、季節労働者は離職せざるを得ません。
こうした雇用の不安定さを無くそうという試みです。
対象の指定地域は限られているので、確認が必要です。
人材確保等支援
雇用環境整備等関係の助成金は、労働者が長く働き自身のキャリアアップできることを目的としています。
そのため、人材確保等支援の助成金が最も細かく決められているのです。
- 雇用管理制度助成
- 介護福祉機器助成
- 介護・保育労働者雇用管理制度
- 中小企業団体
- 人事評価改善等
- 設備改善等支援
- 働き方改革支援
- 雇用管理制度助成
- 若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業
- 作業員宿舎等設置助成
主に離職者が多い、職場環境改善の声が多い職種に対して、賃金制度の整備や設備の改善を目的としています。
受給額はそれぞれのコースで変動しますが、設備や機器などの支援の場合、実際にかかった費用から計算されます。
条件も細かく分かれているので、厚生労働省の公式ホームページから確認してください。
人材確保等支援の場合は、生産性要件が決められているのでその点も確認しておきましょう。
65歳超雇用推進
高齢化が進んでいる現代、従来の定年年齢を超えた人材の活躍の場を作ることを目的とした助成金です。
以下の3つのコースに分けられます。
- 65歳超継続雇用促進
- 高年齢者評価制度等雇用改善
- 高年齢者無期雇用転換
高年齢者に関するコースは、計画書の作成と実施が条件です。
労働環境の整備を行うことや、50歳以上で定年年齢未満の有期雇用契約労働者に対して、無期雇用転換させた場合に対象となります。
65歳超継続雇用促進コースの場合は、以下4つのうちいずれかを制度化して実施した場合支給されます。
- 65歳以上への定年引き上げ
- 定年制度の廃止
- 他社による継続雇用制度の導入
- 希望者全員を66歳以上まで雇用する継続雇用制度の導入
主に自社が行ってきた制度よりも設定年齢を上回り、雇用を続けることが前提です。
受給額は、どの制度を導入したのかによって違いますが15万円〜160万円の範囲といえます。
キャリアアップ
労働者が継続して働けるよう促進する支援で、雇用や賃金の改善、健康診断の実施や手当について以下の7つのコースで分けられています。
- 正社員化
- 賃金規定等改定
- 健康診断制度
- 賃金規定等共通化
- 諸手当制度共通化
- 選択的適用拡大導入時処遇改善
- 短時間労働者労働時間延長
非正規雇用労働者の雇用条件を改善しよう、という目的があるので処遇改善を行うことが基本です。
労働者のモチベーションアップやエンゲージメント向上につながり、より良い企業になるよう支援しています。
どのコースにおいても、条件は以下の通りです。
- 計画書を提出
- 計画を実施
- 6ヶ月間の賃金支払い
賃金規定を改善した場合、賃金額が3%以上上がっている必要があります。
計画書だけではなくて、就業規則などに制度の対象となる労働者の要件について明記しなくてはいけません。
両立支援等関係
労働者が働きながら育児や介護の両立が図れるよう支援する制度の導入、女性の活躍を推進する取り組みを行った場合に支給されます。
状況別に以下の6つのコースに分けられます。
- 出生時両立支援
- 介護離職防止支援
- 育児休業等支援
- 再雇用者評価処遇
- 女性活躍加速化
- 事業所内保育施設
受給金額はそれぞれのコースで細かに分けられていますが、再雇用者評価処遇コースは2回目まで支給され、出生時両立支援コースは2人目以降も支給される点が特徴です。
受給の際、以下の生産性要件を満たした場合に割増されます。
- 直近の会計年度における生産性が前年に比べて6%以上伸びている、または、1%以上6%未満伸びており金融機関から一定の事業性評価を得ている
- 事業者都合の解雇をしていない
子育てに関してのコースは女性だけの問題ではなく、男性側が育児に参加しやすいよう支援する制度です。
育児休業を利用しても、職場に復帰しやすくさらに女性は活躍できる場やチャレンジの機会を与えられるよう助成金が用意されています。
人材開発関係
労働者に対して職業訓練開発を実施した場合に、支援する制度です。
専門的な知識・技能を身につけられるよう、人材を育成することが目的といえます。
人材開発支援助成金と職場適応訓練費の2つに分けられ、職業適応訓練費の場合は障がい者に対し能力に適した作業が行えるよう実施訓練を行うことです。
訓練終了後も継続的に雇用する前提で、支給されます。
人材開発支援助成金は、以下の7つのコースに分けられます。
- 特定訓練
- 一般訓練
- 教育訓練休暇付与
- 特別育成訓練
- 建設労働者認定訓練
- 建設労働者技能実習
- 障がい者職業能力開発
雇用保険の被保険者が対象となる制度で、長期労働であり週20時間以上の労働を行っている人なら誰でも対象になる支援です。
受給額はコースによって違うので、都度確認が必要です。
条件はどのコースも、計画書の作成・実施となります。
訓練終了後、申請は2ヶ月以内に行う必要があるので、スケジュールは意識してください。
【まとめ】雇用関係の助成金は企業・労働者どちらの支援にもなる!
雇用関係助成金の種類やそれぞれの条件について、ご紹介しました。
かなり細かく分かれているので、混乱してしまうかもしれませんが、基本的にきちんと計画書を提出することと計画内容に沿って実施することが前提です。
しっかりと支援制度を理解し、雇用を守っていきましょう。
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